
加齢黄斑変性
加齢黄斑変性
加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい, Age-related Macular Degeneration, AMD)とは、加齢に伴い網膜の黄斑部に異常が生じ、視力低下を引き起こす病気です。
特に高齢者に多く、高年齢化に伴い継続治療が必要な場合が多いことや、治療薬剤(抗VEGF薬)が高価なことなどは社会的な問題となっています。
黄斑(おうはん)とは、眼に入った光が屈折して網膜の中心に到達する部分を指します。キサントフィルという黄色の色素を多く含むため、黄色く見えることから「黄斑」と呼ばれます。
黄斑は視細胞が最も密に配置されている場所であり、視野の中で最も解像度が高い部分です。そのため、視力の中心的な役割を担っています。加齢黄斑変性では、この黄斑部に異常が生じるため、日本における失明原因の上位に挙げられる疾患の一つとなっています。
下の図は、眼科でよく使用される光干渉断層計(OCT)です。(上段:正常、下段:加齢黄斑変性)OCTは、数秒で0.01mmレベルの網膜断面を繰り返し撮影できます。(英語論文 3.6.10)
このOCTの結果をもとに治療方針を決定するため、加齢黄斑変性の診療では基本となる検査であり、毎回撮影を行います。
上段の図は正常な黄斑部のOCT画像、下段の図は加齢黄斑変性の黄斑部のOCT画像です。
加齢黄斑変性のOCT画像では、新生血管が黄斑部の網膜下に発生し、黄斑部が盛り上がっている様子が確認できます。
この新生血管から液体成分が漏出したり、出血が生じたりすることで黄斑部が障害され、視力が低下します。一度低下した視力は回復しないことも多くあります。
加齢黄斑変性によって視力障害を負った方は、その原因を知りたいと思うかもしれません。しかし、新生血管が形成される理由については、これまで全身の状態や眼科所見、さらには遺伝的背景まで含めて多くの研究が行われてきましたが、明確な原因はまだ特定されていません。
これまで述べたように、黄斑部は視機能の中心的な役割を担っています。そのため、黄斑が障害されると、視力低下、歪み(変視症)、中心暗点などの症状が直接現れます。
加齢黄斑変性の治療は、主に抗VEGF療法(眼内注射)によって行われます。治療の目標は 「初めて病院を受診したときの視力を維持すること」 であり、治療によって劇的な視力改善を得ることは難しい場合が多いです。
加齢黄斑変性の主な治療法として、抗VEGF療法が用いられます。加齢黄斑変性では、新生血管の活動に**血管内皮増殖因子(VEGF)**が強く関与していることが分かっています。このVEGFの働きを抑える薬剤を眼内に注射することで、新生血管からの漏出を抑え、病気の進行を抑制します。
抗VEGF薬は、硝子体注射という方法で投与されます。処置は非常にシンプルで、眼球内に直接注射を行います(下図参照)。感染症のリスクを減らすため、投与前には抗生剤の点眼を行います。
消毒を含めても処置時間は2~3分程度で、痛みもほとんどないため、安心して治療を受けることができます。
抗VEGF療法の導入治療後、約80%の患者で一時的に滲出が完全に消失し、非常に効果的な治療といえます。
しかし、再発率は高く(日本語論文37)、導入治療で一度改善した症例でも1年以内に60%以上が再発しており、慢性疾患としての側面が強いことが分かっています。
そのため、視力を維持するためには、初期に適切な治療を行うことに加え、再発を防ぐ継続的な治療が重要です。(早期発見も同様に重要な理由となります。)
そのため実際の治療では、初期治療(導入治療)として、1か月おきに3回の抗VEGF治療を行うことが基本です。
その後は、再発のタイミングを予測し、再発する前に治療を行う方法(TAE治療、下図 緑線)を当院では推奨しています。
視力障害を最小限に抑えながら、受診回数を適切に調整する治療方針をとっています
この治療法は比較的古くからある方法で、現在は抗VEGF薬で十分な効果が得られない症例に対して施行されます。
近年では、抗VEGF治療の回数を減らす効果が期待できることや、日本人に多い病型(PCV:ポリープ状脈絡膜血管症)に有効であることが再評価されています。
ただし、当院では施行できないため、必要に応じて連携病院での治療を提案しています。
タバコに含まれるニコチンが新生血管の増殖や血管漏出を促進することが分かっています。そのため、加齢黄斑変性の予防・進行抑制には禁煙が重要です。
また、欧米型の高脂肪食の増加が加齢黄斑変性の発症リスクを高めることも指摘されています。
そのため、禁煙とバランスの取れた食事を心がけることが、加齢黄斑変性の予防につながります。
加齢黄斑変性の進行を抑える手段として、特定の栄養素やサプリメントが注目されています。
アメリカの大規模研究(AREDS、AREDS2研究)では、特定の栄養素を組み合わせたサプリメントの摂取が、特に中期~後期の加齢黄斑変性の進行を抑える効果があることが示されています。